2013年7月24日 23:06:20
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領土問題への基本的な姿勢
いま、日本の国境周辺は、かつてない緊張感に満ちている。昨年の尖閣諸島の国有化によって日中の関係は急激に悪化し、その接続水域には中国の海洋監視船が頻繁に現れている。さらには、韓国の李明博前大統領による竹島訪問、そして、ロシアによる北方四島の開発など、四方で日本の外交を揺るがす事態が起きている。
領土問題ほど、国民にとって理解し辛いテーマはないかも知れない。それは、「自国の主張が正しいはずなのに、なぜ問題を解決出来ないのか」、「相手国の主張がおかしいのであれば、第三者が公正に裁決する事は出来ないのか」という思いが根底にあるからではないだろうか。その結果、領土問題は、時に過剰なナショナリズムと、関係両国にとって大きな不利益を引き起こす。
最初に断っておくと、本記事は、基本的に「竹島、尖閣諸島、北方領土は、日本の領土である」という立場にある。しかし、これらの島々が、「日本固有の領土」である根拠を並べるだけの主張とは、敢えて一線を画したい。
領土紛争においては、関係国どちらにも言い分があって、その主張に根拠があり、片方が100%正しく、片方が100%間違っているという事はほとんど存在しない。双方が自国の領有権をただ一方的に主張し、強硬な姿勢をとり続けた結果、両国の関係が必要以上に悪化し、自国が不利益を被るような事はあってはならない。
重要なのは、自国と相手国の主張や背景をしっかり認識する事、その上で、実益の観点から大局的な判断をする事だ。さらに、竹島、尖閣諸島、北方領土は、同じ領土紛争といっても、それぞれ事情が大きく異なる事を理解する必要がある。このような姿勢を前提に、本記事では、竹島、尖閣諸島、北方領土の問題を概観したい。
竹島と韓国の国民感情
まずは、韓国との領土問題となっている竹島だ。竹島については、外務省のホームページで公表している資料がある。官庁が公表している資料としては異例のデザイン性とわかりやすさなので、ぜひ一度見てほしい。
竹島問題の概要は、この資料で詳しく説明されているので、ここでは触れない。一般的に、領土問題において争点となるのは、古くからの実行支配があるかどうか、双方にないとすれば、どちらが先に発見し、領有を宣言したかどうか、そして、どのような公文書や史実があるかどうかである。
外務省の資料では、日本に有利な史実のみ伝えられている。もちろん外務省はそうせざるを得ないのだが、ここで考えなければならないのは、韓国側もこれと同じくらいに、自国に有利な根拠を保持しているという事だ。それは日本国内ではほとんど報道されない。逆に韓国でも日本に有利な史実は無視されている。これらの相互理解の欠如が、日韓の溝をより深くしている。
例えば、日本は1905年に竹島を島根県に編入したとしているが、そのことは国内の新聞に掲載するのみで、官報に掲載しておらず、韓国側は知る由もなかった。さらに、その5年前、1900年に韓国側が編入を宣言しており、こちらは大韓帝国勅令として公表されている。日本にとっては認めがたい事実だが、このような例はいくつもある。総じて、日本の根拠の方がやや説得力があるように見えるが、韓国側の反論も力強いものがある。
そして、竹島を巡る領土問題において、日本人が最も知らなければならないのは、韓国にとって、1905年の日本による竹島編入は、1910年の日韓併合への布石として捉えられているという事だ。韓国が竹島に対して、あれだけ強い拘りを見せるのは、根強い日本の侵略歴史に対する韓国の国民感情の表れだと云える。竹島は、韓国人にとって、独立と自尊心の象徴的な土地なのだ。
日本の安全保障を問う尖閣諸島
竹島と比べて、尖閣諸島は、日本の法的立場に圧倒的な優位性がある。1895年に日本編入の閣議決定を行ってから、船着き場や貯水施設等を建設し、古賀村として最盛期には200人近い人々が居住していた。その他にも中国が尖閣諸島を日本の領土と認めた史実がいくつか存在しており、竹島とは随分状況が異なる。こちらも外務省が公表している資料を参考にしてほしい。
しかし、日本の国境周辺で、最も緊張状態にあるのが、この尖閣諸島である。このところ連日のように、尖閣諸島周辺の日本の領海や接続水域に、中国当局の艦艇が侵入している。中国の狙いは、尖閣諸島における日本の実行支配の事実を否定することにある。このまま領海侵犯の事例が積み重なってくると、日本側の統治や施政権の実効性が疑われる。そうすれば日本の優位性を崩す事が出来る。法的に不利な立場にあるならば、まずは日本の実行支配を崩してしまえばいいという考えだ。
歴史認識が争点になる竹島に対して、尖閣諸島は、日本の安全保障を根底から問うだけの深刻さを抱えている。1968年に地下資源が発見されてから、尖閣諸島の領有権を主張し始めた中国と台湾だが、特に中国の狙いは資源だけに留まらない。中国の領土拡張戦略は顕著であり、日本最南端の沖ノ鳥島も標的になっている。中国の強かな戦略に対して、日本側が対立を避けるだけでは事態は収まらず、その要求はさらにエスカレートするのが明白だ。
中国の領土拡張戦略は、日本人にとって横暴に映るかも知れない。しかし、自国の利益を拡大していく、そのために領域を広げていくというのは、国家の常だ。それは、数千年以上の長い歴史が証明しており、かつては日本も同じだった事を忘れてはいけない。いまは平和国家となった日本にとって重要なのは、相手国への対抗策をきちんと保持しておく事、そして、中国とのバランスをとっていく事だ。
北方領土交渉の失敗の歴史
最近報道される事は少なくなっているが、ここ数年で北方領土の情勢は大きく悪化している。北方領土問題の発端は、1945年の太平洋戦争終結時まで遡る。日本がポツダム宣言受諾後の、1945年8月29日から9月5日にかけて、ソ連軍は、北方領土に上陸し占領した。例によって外務省のホームページリンクを掲載しておくが、日本の領有権主張の正当性は明らかだろう。
ただ、残念ながら、50年以上の北方領土返還交渉を総括すれば、失敗だったと云わざるを得ない。現在では、日本への北方領土四島返還の可能性は限りなく低い。2010年にロシアのメドベージェフ大統領が、北方領土の国後島を訪問し、「ロシアの領土を訪問した」との声明を発表した。さらに2007年に始まったクリル開発計画で、ロシアは北方領土に対して積極的な投資を始めた。四島のロシア化とも云える施策で、インフラ、産業、教育、文化への投資によって、ロシア人の住民がモスクワに対する強い帰属意識を感じ始めている。
なぜここまで事態は悪化してしまったのか。結果論かも知れないが、日本側が四島一括返還に執拗にこだわり、ロシアとの交渉機会を逃してしまった事に原因がある。四島一括返還を主張する日本と、二島譲渡(返還ではない)を主張するロシアとの間には、大きな隔たりがあり、お互いに受け入れられる条件ではなかった。日本からすれば四島一括返還が当然と捉えられるだろうが、ロシア政府がそれを飲めば、ロシア国民からの猛反発は必至で、時の政権の存続が危惧される。外交では、相手が受け入れられるギリギリのラインを設定するが、日本が提示した四島一括返還案は、その一線を越えていた。
四島のうち、二島を先に返還した上で平和条約を締結し、残りの二島の返還の交渉を続けるという「二島先行返還」のチャンスはあった。あるいは、歯舞、色丹、国後と択捉の南端を日本領とする「面積二等分案」も浮上していた。しかし、政治家間や外務省内での闘争、そして、世論の反発などで実現はせず、50年以上続けてきた北方領土交渉は現在八方塞がりの状況だ。今後、ロシアによる開発投資が進むほど、日本は不利な立場になるだろう。
実益の観点から大局的な判断を
ここまで、竹島、尖閣諸島、北方領土について概観してきた。現状は下記表の通りである。
日本が抱える領土紛争は、いずれも一筋縄ではいかないものばかりだ。それでは、日本は今後どのように対応していくべきなのだろうか。竹島、尖閣諸島、北方領土の問題に着地点はあるのだろうか。
まず、双方の主張が相容れないならば、国際司法裁判所(ICJ)に解決を委ねるべきという意見がある。しかし、実行支配をしている国がそれを拒否するのは必然だ。例えば、竹島について日本が付託を提案しても、韓国は決して賛同しない。逆に尖閣諸島について、日本は国際司法裁判所への付託を認める事はないだろう。国際司法裁判所への付託は、実行支配している国にとっては現在の優位をあまり反映出来ないからだ。関係国双方が賛同しなければ、国際司法裁判所は介入しないのが決まりであり、国際司法裁判所による解決は、現実的な可能性が極めて低い。
竹島は韓国が50年以上実行支配しており、日本が単独で主権を勝ち取るのは大変難しい状況だ。ただ、竹島周辺で海底資源は見つかっておらず、利用価値は漁業に絞られる。そして、1997年に日韓漁業協定が結ばれ、日本の漁民も竹島周辺で漁業をしていい事になっていた。しかし、協定締結後も実質的な漁業権が認められず、島根県議会は2005年に漁業問題を領有権の問題にしてしまったという経緯がある。そこで、実際に被害を受けている漁業従事者のためにも、まずは日韓漁業協定の見直し(日本の漁業従事者が納得する形で)から訴えていくのが妥当ではないだろうか。領土の主権だけを争点にすると硬直化した現状を解きほぐす事は出来ないだろう。
日本にとっては状況が悪化するばかりの北方領土問題において、唯一の希望は、プーチンが2012年に再び大統領となった事だろうか。親日派で知られるプーチン大統領は、エネルギー資源開発の協力者として、また、脱エネルギー型付加価値経済の協力者として、日本に期待を寄せていると云われている。確かに、北方領土だけを見れば、日本にとって打開策のない現状であり、以前に比べてさらに厳しい条件で、交渉に臨まなければならないだろう。しかし、ロシアが日本との平和条約締結や、経済協力について、北方領土の完全支配以上にメリットを感じるのであれば、交渉の窓が再び開く可能性はある。その機会を日本は逃さないようにしなければいけない。
そして、尖閣諸島については、武力衝突を回避するという大前提のもと、日本側も海上自衛隊の兵力を強化し、中国の強硬な姿勢に、しっかりと対応していくべきだ。相手が武力を行使する可能性があるなら、交渉や同盟では太刀打ち出来ず、それに対する抑止力を保持しておく以外に道はない。そして、これはあくまでも尖閣諸島(ひいては沖ノ鳥島 や沖縄)の領有権を守るため、日本の平和のための抑止力でなくてはならない。もし中国側が実行支配の既成事実を積み上げていくならば、日本もそれに対抗して、実行支配のレベルを少しずつ上げていく必要に迫られるだろう。その際は野生動物や漁業資源の調査や漁船の避難場所設置等の方法は考えられる。中国側も軍事衝突は避けたいと考えているだろうから、お互いに一歩ずつ既成事実を積み上げていった結果、双方がこれ以上は危険と判断したら、最終的に交渉で解決していく事になるはずだ。
尖閣諸島において、平和的な解決策が一つあるとしたら、日本の主権を保ちつつ、資源を共同開発するというものだ。尖閣を日本に有利な条件で共同開発する事によるメリットは大きい。中国の資金と日本の技術を組み合わせて開発すれば、お互いが別々に開発するよりも、双方にとって利益となりうる。あくまでも日本の国内法に基づき中国や台湾を参加させる事で、尖閣諸島における日本の主権は失われず、むしろ既成事実が強まる。元々、資源が発見されてから、中国と台湾は領有権を主張し始めたので、共同開発の提案にはかなりの興味を示すだろう。
いずれにせよ、日本の領土問題は、何もせずに時間が解決する事はありえない。むしろただ傍観しているだけでは、日本にとって不利な事態は加速し、相手国に対する不信感もさらに増すだろう。そして、その不信感はやがて領土問題以外にも影響し、両国にとって大きな不利益をもたらす可能性が高い。だからこそ、わたしたちは、日本の領土に対する深い自覚を持つと同時に、決して領土問題だけに捉われる事なく、相手国への理解と協調を忘れずに、東アジアの平和の維持に貢献していきたい。
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